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2025年10月15日、国際文化会館は韓国のシンクタンクである峨山(アサン)政策研究院と共催し、「日韓政策対話」を開催いたしました。本対話は、日韓国交正常化60周年を記念し、これまでの両国関係を振り返るとともに、その将来を展望することを目的に実施されました。韓国側からは、李赫(イ・ヒョク)駐日韓国大使をはじめ韓国外交部において要職を務めた政府関係者や元駐日大使、また韓国を代表するシンクタンクや研究機関の代表者・研究者が参加しました。日本側からは、岸田文雄元内閣総理大臣、衆議院議員・長島昭久 内閣総理大臣補佐官(国家安全保障担当)、安全保障に関わる政府関係者、日韓関係を専門とする研究者、さらに国際文化会館の研究者らが出席しました。
開会式
鄭夢準(チョン・モンジュン)峨山政策研究院名誉理事長は、日本による朝鮮半島支配からの解放80年、日韓国交正常化60年という節目の年に本シンポジウムを開催できたことへの喜びを述べました。そのうえで、日韓両国は「近くて遠い隣国」ではなく「近くて近い隣国」を目指すべきだと強調しました。歴史問題の解決が依然として重要であるとしつつも、日韓協力は「選択ではなく必然」であり、その深化のためにはアジア版NATO構想を含む新たな協力枠組みの構築が必要だと指摘しました。
続いて、神保謙 (APIプレジデント・国際文化会館代表理事)は、日韓関係が「修復」から「共に課題に立ち向かう関係」へと発展していると評価しました。また、未来世代をつなぐ架け橋としてAPIと峨山政策研究院が貢献し、日韓両国が国際的な分断を乗り越える原動力となることへの期待を示しました。
祝辞・基調講演
先月着任したばかりの李赫(イ・ヒョク)駐日韓国特命全権大使は、日韓両国の首脳レベルで進められているシャトル外交について、「近くて近い関係」を築くうえで極めて重要な役割を果たしていると評価しました。日韓関係は、人間関係と同様に感情的な要素が入り込み停滞しやすい側面があるものの、それを乗り越えることで、より大きな発展が期待できると述べました。さらに、現在の韓国外交において最も国益を追求しているのは日本との関係であり、あらゆる分野での協力と発展を実現することが自身の使命であるとの強い決意を示しました。
また、基調講演を行った岸田文雄前内閣総理大臣は、日韓関係が幾多の困難を乗り越えながら発展してきた歴史を振り返り、「日韓協力は選択ではなく必然である」と強調しました。2022年の尹政権発足を契機に両国関係が改善し、シャトル外交の進展を通じて信頼醸成が着実に進んでいる点を高く評価しました。そのうえで、国民交流こそが関係改善を支える基盤であり、防災や高齢化対策、北朝鮮問題といった共通課題への協力を深めることで、両国の絆を一層強固なものにしていくことの重要性を訴えました。
第1セッション
「トランプ政権2.0時代における日米韓関係」をテーマに、座長の尹德敏(ユン・ドンミン) 元駐日韓国大使のもと活発な議論が展開されました。
まず、細谷雄一・国際文化会館理事/慶應義塾大学教授からは、トランプ政権2.0では同盟に対する姿勢が不透明となり、自由や民主主義といった普遍的価値の後退が懸念されるとの見解が示されました。そのような環境下において、日本は従来型の日米同盟への依存的なアプローチを見直し、防衛力の強化とともに戦略的自立性を高める必要があると指摘しました。さらに、韓国をはじめとする価値を共有する国々との連携を深め、日本が地域における外交的リーダーシップを発揮することの重要性を強調しました。
続いて、李容濬(イ・ヨンジュン)世宗研究所理事長からは、米中覇権競争の現状について詳細な分析が行われました。米国はデカップリング政策によって中国の追い上げを一定程度抑制しており、トランプ政権2.0は中国の再浮上を防ぐため、新たな国際秩序の構築を模索しているとの見方が示されました。また、米国が同盟国の役割を拡大し、自国に有利な安全保障構造を形成しようとしている点を指摘し、同盟国には「寛大な覇権国」が存在しない新時代に備える戦略的対応が求められていると警鐘を鳴らしました。
ディスカッションでは、討論者を務めた阪田恭代・神田外国大学教授を中心に、多角的な視点から意見交換が行われました。韓国が米中対立下で直面する陣営選択や高関税体制下での経済的生存戦略、さらには台湾有事への対応といった複合的課題についても議論が深まりました。
第2セッション
「北朝鮮の核問題に対する日韓・日米韓協力の在り方」をテーマに、座長 神保謙(APIプレジデント・国際文化会館常務理事)のもと実務的かつ戦略的な議論が展開されました。
峨山政策研究院の梁旭(ヤン・ウク)研究委員は、北朝鮮の核・ミサイル開発が着実に進む一方で、日韓の軍事協力は十分に機能していないと指摘しました。そのうえで、外交(Diplomatic)・情報(Information)・軍事(Military)・経済(Economic)などを含むDIME-FILの枠組みに基づき、日韓協力の方向性を整理し、具体策として日韓リアルタイム情報共有ネットワーク(SIREN)の構築を提案しました。
一橋大学の秋山信将教授は、北朝鮮の核・ミサイル開発の最新動向を踏まえ、日米韓3カ国の間で政策上の優先順位にずれがある現状を分析しました。そのうえで、三国協力を制度的に強化するための課題と政策対応を提示し、さらに「非核化」を今後も政策目標として維持すべきか再検討の必要性を提起しました。
続いて、討論者の小木洋人 地経学研究所主任研究員は、米国の政治的コミットメントの不確実性に触れ、北朝鮮対応における米国の関与への依存に慎重な見方を示しました。また、情報共有を実際の共同作戦計画に結びつける実効性の確保が不可欠であると強調しました。
フロアからも、有事の際に米国の関与が限定的となる可能性を踏まえた日韓協力の在り方や、日韓関係の深化に伴い強まる中国からの圧力への対応など、多角的な論点が提起され、活発な意見交換が行われました。
第3セッション
「インド太平洋地域における日韓協力の現状と課題」をテーマに、座長 申珏秀(シン カクス) 元外交部次官のもと今後の連携の方向性や戦略的課題について活発な議論が交わされました。
慶應義塾大学の西野純也教授は、日韓協力の可能性と方向性について三つの視点を提示しました。第一に、両政府間では戦略的連携が確認されているものの、韓国が今後、南北関係の再構築を模索する過程で日韓間に認識のずれが生じる可能性があると指摘しました。第二に、中国との関係や韓国の国内政治の変化を踏まえ、日韓豪などによるミニラテラル協力の構築が重要になると述べました。
続いて、峨山政策研究院の崔恩美(チェ・ウンミ)研究委員は、日韓の脅威認識と協力課題について発表を行い、世論動向の変化に注目しました。韓国では日本との防衛協力に対する支持が急速に高まっており、両国への好感度も上昇していると指摘しました。一方で、専門家と一般市民の間には依然として認識の隔たりがあり、政府がどのように国民の声に応えていくかが今後の課題になると述べました。
討論者として登壇した衆議院議員・長島昭久内閣総理大臣補佐官(国家安全保障担当)は、自身が提唱してきた「日韓同盟構想」に触れ、現在の議論がかつてないほど進展していると評価しました。さらに、歴史問題への対応においては、①長期的な戦略的利益を見失わないこと、②過去の合意を最大限尊重すること、③勇気をもって国内世論を説得すること、という「長島三原則」を紹介し、戦略的かつ建設的な対話の重要性を強調しました。
ディスカッションでは、専門家が一般世論に複雑な安全保障・外交課題を分かりやすく伝える意義、米国を巻き込んだ多国間協力の強化、グローバルサウス諸国との関係構築、韓国のCPTPP参加の意義、防衛協力の制度的・政治的課題など、多角的な論点が提示されました。最後に、政治家による不用意な発言が日韓関係に悪影響を及ぼす可能性があるとの指摘があり、建設的で責任ある対話の重要性が改めて確認されました。
閉会式
神保謙 (APIプレジデント/国際文化会館常務理事)と崔剛(チェ・ガン)峨山政策研究院長が登壇し、今回の議論を通じて日韓関係がこれまでの「課題管理」の段階から、より主体的な「秩序構想」の段階へと発展しつつあるとの認識を示しました。併せて、歴史問題を適切に管理し続けることの重要性を改めて強調し、率直かつ建設的な対話が実現したことへの喜びを述べました。最後に、崔院長が「過去を忘れた者には未来を築くことはできない」との言葉でスピーチを締めくくり、今回のシンポジウム全体を総括しました。
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