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2025年11月7日から9日にかけて、中国・北京で三極委員会アジア太平洋地域会合が開催されました。
三極委員会は、北米・ヨーロッパ・アジア太平洋地域の民間有識者が集い、国際的な協力と対話を促進することを目的とした非政府組織です。三極間の相互理解を促進し、多国間主義に基づく安定した国際秩序の形成に貢献することを使命としており、毎年開催される「総会」と「地域会合」を通じて継続的な議論を行っています。アジア太平洋委員会は1973年の設立以来、日本に事務局を置き、その活動を担ってきました。
今回の地域会合では「揺らぐ国際秩序とアジアの国際的責任(Contested Orders and Asia’s Global Responsibility)」を総合テーマに掲げ、日本、中国を含むアジア、ヨーロッパ、北米の各地域から、ビジネス界、学界、メディア、政府関係者など多様な分野を代表するメンバー総勢約70名が参加しました。国際環境が不安定化するなかで、アジアがどのように国際社会の安定と協調に貢献できるかを多角的に議論しました。
3日間にわたる全7セッションと特別対話では、地政学的競争、経済安全保障、サプライチェーン再編、新興技術と倫理、気候・エネルギーなど、国際社会が直面する幅広い課題が取り上げられました。参加者の間では、アジア太平洋地域が今後も成長の中心であると同時に、より積極的に国際秩序の形成に関与し、地域の安定と協調を支える存在となるべきだとの認識が共有されました。
1日目:再編される世界秩序と中国の役割
初日の第一セッションでは、「再編される世界秩序とアジア太平洋の戦略的課題」をテーマに、世界的な緊張の高まりの中で、アジアがより主体的に秩序形成に関与する必要性が論じられました。
経済面ではアジアが依然として世界の成長を牽引している一方で、制度的な枠組みの弱さが課題として指摘されました。経済的相互依存から協調的ガバナンスへと発展するための方策についても意見が交わされ、アジアが「成長のエンジン」から「秩序の設計者」へと進化できるかどうかが地域の安定を左右するとの見方が示されました。
続く特別対話「中国の国際的責任と役割」では、中国国内外の有識者と共に、中国経済の構造転換や対外政策が議論されました。貿易の多角化や国内需要の促進を通じて経済の安定を図りつつ、国際的な信頼を高めるための中国の取り組みが紹介され、国際関係への責任ある関与を重視する姿勢が共有されました。
2日目:アジア太平洋における変動する経済秩序
2日目は、トランプ政権再登場後の国際環境を背景に、アジアの戦略的・経済的レジリエンスをめぐる議論が展開されました。
「トランプ2.0とアジア ― 戦略的・経済的波及」では、トランプ政権の関税政策や取引型外交がアジア諸国にもたらす影響や米国との関係の安定化に向けた試みについて議論がなされました。米国の政治的分断や制度の脆弱化が長期的な外交の一貫性を損なう懸念も挙げられ、こうした不透明な環境下で、アジア諸国が地域内協力や多角的ネットワークの強化を進める重要性が強調されました。
続く「貿易・サプライチェーン・アジア太平洋の経済的レジリエンス」では、保護主義の高まりや地政学・地経学リスクに対応するための戦略が議論されました。CPTPPやRCEPなどの地域枠組みの活用に加え、サプライチェーンの多様化やデジタルインフラの整備が、安定した経済成長を支える鍵であるとの見解が示されました。
セッション「アジアの地政学 ― 競争か収斂か」では、技術と安全保障をめぐる主導権争いが地域秩序に及ぼす影響について議論が交わされました。産業・技術・安全保障が相互に結びつくなか、新たな依存関係や分断のリスクが高まる現状を踏まえ、実務的な対話と信頼醸成の重要性が確認されました。
2日目最後に行われたセッション「新しい国際秩序と戦略的分岐 ― BRICS、制裁、脱ドル化」では、BRICSの拡大や脱ドル化の動きなど、新たな国際経済の潮流を背景に、国家の経済的な自立とイノベーションをどう両立させるかが議論されました。不確実な国際経済の中で、予見可能で透明性の高いビジネス環境の整備と、外的変化に対応できる強固な国内制度の構築が、今後の競争力を支える鍵になるとの認識が示されました。
3日目:新興技術と持続可能性への展望
最終日は、技術革新と持続可能な成長をテーマとする2つのセッションが行われました。
「人工知能とイノベーション:倫理・ガバナンス・人類の未来」では、AIがもたらす社会・経済・倫理的課題が取り上げられ、教育や雇用の在り方、格差拡大への懸念などを踏まえた包括的なガバナンスの必要性が指摘されました。技術発展を人間中心の価値観に基づくものとするため、倫理と信頼を重視したルールづくりの重要性が強調されました。
続く「エネルギー・エコロジー・アジアの持続可能な軌道」では、エネルギー転換や気候変動対策における地域協力の方向性が議論されました。デリスキングを志向する動きの広がりの中で、多国間連携が不可欠であるとの認識が示されました。また、エネルギーや環境分野で進む技術革新を適切に管理していくための仕組みづくりが、各国に共通する課題として挙げられました。先進国と新興国が透明で開かれたルールのもとで信頼を深めることが、持続的かつ包摂的な発展の基盤になるとされました。
2026年東京総会に向けて
今回の会合を通じて、アジア太平洋が直面する共通課題への理解が深まり、対話と協調の重要性が改めて確認されました。不安定化が強まる国際環境の中にあっても、三極委員会のネットワークを通じて建設的な議論を重ねることで、安定的で持続可能な国際秩序の構築に貢献していくことが期待されます。
アジア太平洋地域委員会は、2026年に東京で開催される年次総会に向けて、今後も相互理解とパートナーシップの強化に努めてまいります。
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